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2013/11/30

たとえ名前が付けられることがなくとも、いつまでも色褪せることのない少女たちの想い。 雨隠ギド『終電にはかえします』

雨隠ギド『終電にはかえします』

 同じ路線で同じ学校へ通う先輩と後輩の話を描いた表題作など、5編7話のマンガはいずれも些細なことから相手となる女の子のことが気になり始めた少女たちの物語となっている。
 以下ではその中から3編ほど取り上げたい。

 『ひらがな線、あいう駅より』とその続きであり表題作にもなっている『終電にはかえします』は、たまたま痴漢から助けてもらったことが縁で知り合った2人の女子高生の物語だ。ミスコンで優勝して女子アナになりサッカー日本代表と結婚して玉の輿を狙うため、クソ遠いお嬢様学校へ通うかわいい系女子の瀬戸あさき。そのあさきが盗撮されそうになっていたところを助けてくれたのは、同じ電車で同じ高校へ通う2学年下の奥山ツネだった。ツネは脱色した後に伸びた髪をそのまま放置しているいわゆるプリン頭で、常にマスクをして細い目だけを覗かせている。そんなヤンキーのような外見をしたツネと、助けてもらったことをきっかけに暇つぶしを兼ねて一緒に通うことにしたあさきだったが、あるときツネにどうしようもなく惹かれている自分に気づく。
 2人の出会いはわりとベタだし、関係の進展もわりとオーソドックスな感じはする。ただ、外見も、服の好みも、おそらくそれまでの生き方も真逆に見えるようなあさきとツネがふとしたことから知り合い、お互いにかけがえのない存在になっていくさまは、とても切なく、ときどき滑稽で、2人の結末が何となく読めていても先が知りたくなってページを繰る手を止められなくなる。それには見た目に反して乙女な感じのツネが果たしている役割が大きく、また同様に見た目に反して根がお笑い系なあさきに依存している部分が大きい。そういう意味ではあさきとツネは似たもの同士であり、2人が惹かれ合うようになったこともごく自然なことだったように思える。玉の輿が待つ路線を逸れてどこへたどり着くともわからない電車に乗ったあさきは、ツネと2人、終わらない終電を乗り継ぎながらこれからも歩んでいくだろう。

 クラスに1人はいるぼっちのサトウさん。そこそこクラスメイトと仲良くしながら至って普通の日々を過ごしていたスズキさんは、あるとき車に乗った大人の女性と親しげに話すサトウさんを見かけ、クラスにいるときとのギャップに驚く。その車の女性、タカハシさんにサトウさんの友達と思われたスズキさんが連れて行かれたのは、タカハシさんの自宅に作られた星の海だった。『少女プラネタリウム』はスズキさんとサトウさんの2人が過ごした時間を描いた話で、その続きとして掌編の『少女星図』が描き下ろされている。
 これは秘密を共有する物語だ。ポニーテールの眼鏡っ娘でありながら教室では1人本を読み、空気のような存在になっているサトウさんが、教室では決して見せない姿、表情、感情、星に対する想い。最初こそ単なる好奇心でサトウさんを追っていたスズキさんがクラスの中では自分だけに見せてくれるサトウさんの一面を知り、やがてサトウさんをもっと知りたくなり、独り占めしたくなるのも無理もないと思わせる。
「星って変なの/どんなに光ってても誰かに見つけてもらえないと/ないのといっしょなんだよ」(p.72)
 そのサトウさんの言葉はスズキさんにしみじみと浸透し、スズキさんのサトウさんに対する想いを決定付ける。他の誰かじゃなくてこの人じゃないとダメなんだ。話はスズキさんの視点で進むためサトウさんの思うところは想像に依る部分も大きいが、偽物の星空の下で2人が過ごした時間は確かに本物で、スズキさんとサトウさんの互いへの想いもそれ以上に本物なのだろう。
 ちなみに、タカハシさんが同居している女性はタナカさんという。その昔、「鈴木くん」「佐藤くん」「田中くん」といった日本に多い名字を冠したスナック菓子があったが、『少女プラネタリウム』を読んでそんなことを思い出した。

 現代の現実世界を舞台にした物語の中にあって『永遠に少女』は唯一ファンタジー色の強い内容になっている。
 夭折して幽霊として生きる(?)ことになったみずきが生前住んでいた家を訪ねると、そこはすでに他人の家になっていた。ところが、そこに住む家族のうち、幼稚園に通う1人娘だけは幽霊であるみずきに気づき、みずきに触れることができた。みさおという名の物怖じない娘とみずきが出会い、ともに生きた(?)時間を壮大なスケールで描いた物語。『永遠に少女』はそんなマンガだ。
 『永遠に少女』には一読して度肝を抜かれた。
 まず、みずきとみさおの出会いからして斬新だ。みずきは幽霊であるため基本的に人や物に触れることはできない。一方、みさおはみずきに触れることができる。ちょうど食事中にみずきと出くわし、そのことに気づいたみさおは、自分が食べていたごはんをとある方法でみずきに食べさせる。そんな2人の姿は微笑ましく、みずきが幽霊であるという悲哀をまったく感じさせない。
 そんなふうにしてみずきと出会ったみさおが、パジャマのまま漂っていたみずきを着替えせようという発想に至ったことがまた新しい。本来出会うはずのない2人が出会っただけでも奇跡だというのに、食べ物を分かち合い、着る物を共有する。それは奇跡などという一言では尽くせないほど2人にとっては大切な出来事だろう。
 だが、みさおがみずきとの埋めようのない彼我の差に気づいてしまったとき、2人の関係は一変する。既にこの世にいないため姿形が永遠に変わらないみずき。みずきと出会った頃は幼女だったのに、小学生になり、やがて中学生へと成長するみさお。2人は同じ時間を過ごしているはずなのに同じ時間を生きてはいない。死んでいるはずのみずきがいつまでもみさおを縛っていてよいものか。それはみずきの長年の懸案であり、わがままであり、しかしみさおのみずきに対する想いをまったく無視した身勝手な疑問だ。2人が選んだ結末がどういうものであるかにはここでは触れないが、『永遠に少女』というタイトルが持つ意味に気づいたとき、2人の身にさらなる奇跡が起きることを願わずにはいられないだろう。

 これは大変なものを読んでしまった。『終電にはかえします』に収められたマンガはいずれも些細なことから相手となる女の子のことが気になり始めた少女たちの物語だ。だが、その些細なことは当事者にとってはときに一生を左右するほどの一大事になる。物語の中には叶う想いも叶わない想いもあるが、たとえ届かなくても、たとえ名前が付けられることがなくても、その想いはいつまでも色褪せることなく輝き続けるだろう。

【出典】
・雨隠ギド 『終電にはかえします』 新書館<ひらり、コミックス>、2013/12/15発行
瞼閉original→作者のサイト。

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