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2013/05/13

弟くん先輩のMOTTAINAI精神はノーベル賞級? 前夜祭のセルフオマージュも胸熱な『あまんちゅ!』第6巻

『あまんちゅ!』第6巻。限定版と通常版で絵柄が違うなら両方買うしかないじゃない! あなたも! 私も!

 学校へ行ったり海に潜ったりとTARI TARIな日常を過ごす高校生、「てこ」と「ぴかり」たちを描いた『あまんちゅ!』の6巻は、弟くん先輩がダイビングの道具に大切なパートナーとして接している様子や小学生の女の子を通じてぴかりが海の生命に対して抱いている想いが伺えたり、往年の読者には懐かしい仕掛けが施されたりした1冊だった。

 『あまんちゅ!』は「夢ヶ丘」を冠した高校名、ダイビング部顧問である「火鳥真斗」の名前から、当初より同じ作者の手による『浪漫倶楽部』との共通性が指摘されていた。『浪漫倶楽部』では、不思議な存在を見ることのできる目を持った主人公・火鳥泉行は夢ヶ丘中学校へ通い、火鳥真斗という姉を持っている。今回、文化祭の前夜祭で不思議な体験をした姉ちゃん先輩に対して真斗先生が言った「弟ほどではないんだが私もこっち方面の話には人より多少強いらしくてな」というセリフにより、『あまんちゅ!』と『浪漫倶楽部』が同じ舞台の上に成立していることがより強く裏付けられたことになる。『浪漫倶楽部』6巻時点で16歳だった火鳥真斗は『あまんちゅ!』6巻では29歳の女性として描かれている。もし、『あまんちゅ!』に26、7歳の火鳥泉行が姿を見せるとしたらどんな青年として登場するだろうか。もっとも、『浪漫倶楽部』は泉行の先輩であるはずの浪漫倶楽部部長が3度目の夏を迎えても卒業していないことからサザエさん時空になっていると考えられるため、『浪漫倶楽部』の火鳥泉行は並行世界の住人、永遠の中学生として今も不思議の探求をし続けているかもしれない。

 もう1つ顕著な仕掛けを挙げるとすれば、第34話「前夜祭」と第35話「永遠の国」で描かれた文化祭の前夜だろう。これは作者のデビュー作であり、同じく文化祭前夜の話である『前夜祭』(短編集『夢空界』所収)のセルフオマージュになっていると思われる。第34話などはそのサブタイトルからして同一であり、前夜祭という特別な時間が永遠に続くことを願う人物が登場することも共通している。また、第34話で姉ちゃん先輩が階段から落下する場面(『あまんちゅ!』第6巻p.109・4コマ目)は『前夜祭』での同様の場面(『夢空界』p.30・2コマ目)とその構図から擬音までほぼ一致している(落下の結末が異なることについての考察はここでは省く)。

『あまんちゅ!』第6巻 p.109・4コマ目と『前夜祭』(『夢空界』所収) p.30・2コマ目の比較

その共通点に気づくと、『あまんちゅ!』第6巻にはなぜ文化祭前夜のエピソードはあるのに文化祭当日の話はないのかについて自ずと納得がゆく。姉ちゃん先輩や『前夜祭』の主人公が取った選択とは矛盾するが、文化祭そのものを描いてしまえば文化祭はそれで終わってしまうのに対して、描かれなかった文化祭はいつまでも想像し続けられる。祭りや旅行など日常の中の非日常は得てして楽しいものだが、それを迎えるまでの時間もめっぽう楽しいものだから。

『夢空界』

 『夢空界』に言及したついでに。天野こずえという作家を知ったのは当時の季刊雑誌に掲載されていた『刹那の夏』(短編集『夢空界』所収)だった。『刹那の夏』は30ページほどの短編マンガだが、今でも夏になると思い出すほど好きな話の1つだ。そういう意味では未だに1994年の夏に囚われているのかもしれない。

【出典】
・天野こずえ 『あまんちゅ!』第6巻、マッグガーデン<BLADE COMICS>、2013年
・天野こずえ 『夢空界―天野こずえ短編集』 エニックス<ガンガンコミックス>、1996年→絶版。新版はマッグガーデン発刊。
なにげない日常が愛おしい。 『あまんちゅ』第7巻→第7巻の感想(2013/11/10追記)

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