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2013/04/19

いつの間にかボールが相手に移っているような少女同士の恋の駆け引き。『名前はまだない』

『名前はまだない』

 一度読み通した後に改めて青空を背景にした本を手に取り、本に巻かれた帯→帯を外したジャケット→表紙をめくったところの中表紙の順に眺める。すると、その3コマが表題作である『名前はまだない』の2人の関係を実に端的かつ的確に表していて思わずニヤニヤしてしまう。

 計算高い転校生と無関心を装う猫のようなぼっちの2人が駆け引きを繰り広げる表題作のシリーズに、5つの短編を合わせた百合マンガ作品集である『名前はまだない』。初っ端の『3秒ルール』なんて登場人物2人の名前すら出てこないのに、ここぞという場面で思わず本を閉じて少し落ち着いてからでないと続きを読めないくらいの破壊力を持っている。まったくしてやられた。そう来たか。本を閉じて、深呼吸して、少し冷静になって、再び本を開く。基本的にどの話もそんな感じなので、読み終えるまでに都合10回近くは本を閉じたのではないだろうか。背表紙がバカになっていなければいいけれど。

 読み応えという意味では表題作でもあり本の半分を占めている『名前はまだない』の一連の物語に軍配が上がるけれど、個人的にもっともツボだったのが短編の『恋はお静かに』だった。『恋はお静かに』は何を考えているかわからない無表情キャラの委員長と考えていることが顔に出る百面相のユキちゃんの話で、ひょんなことから委員長の思っていることがユキちゃんに伝わるようになってしまったことで変わり始める2人の関係を描いている。この委員長とユキちゃんの組み合わせが好きすぎて辛い。委員長が終始一貫表情を崩さないくせに考えることがやや変態じみていてもう! 委員長が無表情で垂れ流す変態チックな妄想に逐一反応しては自分の妄想だと思って悩むユキちゃんがもう! 続きを読みたい気もするけれど短編だからこそきっとこのよさがあるというか、でも無表情無言で言葉責めする委員長とユキちゃんをもっと見てみたいというか! なんというジレンマ!

 普段「自分」を繕っている想い人がふと綻ぶ瞬間がいい、それが自分のせいで、自分のためだったらもっといい。『名前はまだない』はお互いにそんなことを思っている少女と少女が織り成す物語集だった。

【出典】
・かずまこを 『名前はまだない』 一迅社<百合姫コミックス>、2013年

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